2011/04/17

静かな身体_2_

 二人の住む家は、海からほんの少しの距離にある。
 波の行き来の反復は、二人の呼吸のように身体にぴったり寄り添い離れない。風が強くなると、海のざわめく予兆を捉え、二人の心は、密かに弾む。 
 ネイがユナと暮らし始めると、土地の者達はいっそう足繁く、二人のもとを訪ねるようになった。二人を訪ねるというよりは、ネイの家の裏山にある、たんぺろ様を拝みにくるのであるが、その行き帰りに、人々はネイの家の土間や縁側でお茶を飲み、二人の様子を見ていく。
 土地の者と取り留めのない話をしていると、自分は、本当には存在していない者なのだろうという、はっきりとした確信がネイをおそう。苛立ちがない人々の話は、いつもつらつらとどこか似通っていて、誰から何の話を聞いているのかさっぱり分からなくなり、全ての話がネイの中で一体化してしまう。そうしているうちに、自分はその土地の者たちの語る物語の登場人物なのだろうと、ネイはふわりふわりと宙に漂っている。ユナが根元に眠っていたあの朝も、こんな土地の者の話もあったかもしれぬと、ちらとその「見知らぬ赤ん坊がいる」という状況について思ったきりで、それ以上は不思議も困ったも何もなく、これが正しい筋書きである、こうすべきものだ、といった迷いのない気持ちで自然とユナを抱き上げていた。

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