それは思いも寄らぬことだった。何気なく見ていたニュース番組の中に、インタビューを受けるオリバーを彼女は見つけたのだ。そしてひどく狼狽した。
その町を出た日から、彼女はその町を忘れようと決めたのだ。それなのに、過去を語らなければならない機会は、気が滅入るほど多い(人は無邪気に出身地を聞く。まるでそれがマナーだ、とでも言うように。)。だから彼女は、慎重に語るべき側面を選び出し、あるいは、些細な修正を繰り返し、彼女にとって語るべき価値のある、生まれ故郷を作りあげた。
恋人の腕にくるまりながら、聞かれるがままに語る、その町での幼い自分の幸せに、涙を流したことも少なくない。田舎の自然に囲まれて、比較的裕福な家庭でのびのびと育った、幸せなわたし。
「ええ、多くの方に来ていただいて、以前より忙しいくらいなんです、とオリバーの母親が朗らかに語り、
―以前は弁当なんて扱ってなかったけどね、今じゃあ、一番の売れセンで、と父親が言葉を継ぐ。
―渋滞が増えたから、仕入れもなかなか大変なんだけど、息子がやってくれるから、助かっちゃって」誇らしげに見つめる父と母の視線を、屈託なく受けるオリバーの姿を彼女は呆然と見つめていた。
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