2015/04/21

初日

一.


 首都から一ヶ月ほど遅れて冬が明け、まだ何もない田んぼの向こうに、うっすらと山が色味を帯び、けぶって見える。整然と区画された田んぼが静かに広がるその町では、まるで意思を持っているかのような、強く太い風がまっすぐに谷間へ抜けていく。
 男たちによって運転される車が、次々に駐車場に整列し、また次々に去っていく。それは、出来合いの食事と、眠りにつくまでのほんの数時間を埋めるための娯楽とを買う男たちで、期間工として、その町の恵みを受けている。
 男ばかりが採用されるその職の口があるばかりで、観光資源がないその町には、女性はほとんどやってこない。町の若い女たちはすでにその町を去っている。さらには、女たちだけではなく、ほとんどの者たちがその町を去っている。だから、見ず知らずの期間工たちのために、カロリー爆弾とでも言えそうな、油まみれの弁当を店頭に並べている、その25歳の青年は、作業服に支配されるその町の中で、やるせない気持ちでいるのだ。生殖機能の麻痺した町にただ一人、機能を有したままつなぎ止められているのだから。
 オリバーはここで生まれ、ここに今もいる。すでにこの世を去った祖父母が始め、両親に引き継がれたこのよろずやが、彼の職場であり、その二階に両親と共に住んでいる。期間工たちが来るようになってから、店の売上のほとんどを占めるようになった弁当や総菜パンなどを、片道二十キロの距離を運転し、仕入れるのが彼の仕事だ。
「ついでに、同窓会のはがきを出してきたら? と小柄なオリバーの母親が声をかける。
 ―そうだね、とオリバー。
 ―ほら、いいかげん、もっていきなさいよ、と母親は『参加』に丸がつけられた葉書をオリバーの手に押し付ける。その締め切りは、すでに五日が経過している。 
 ―たまには友達にでも会って気分転換してきなさいよ。こっちはお前なしでも何て事ないんだからね」と、母親は細い身体に不釣り合いなほど太くごつごつとした手をさすりながら、オリバーに背を向ける。

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